すれちがう声を、風が運ぶ。

木造の平屋にぶらさがる、ひとつの風鈴。
音は鳴っていないのに、聞こえた気がした。

彼はまっすぐ前を向いていた。
彼女は少しだけ、振り返っていた。
二人の間には、言葉ではない何かが、確かに通っていた。

この道は、何度も一緒に歩いたはずなのに。
今日だけは、なぜか足並みがそろわなかった。

夕暮れに包まれた町は、やさしく、少しだけ苦い。
昭和の町並みに、2020年代の光が差し込むこの一枚は、
時代を越えて、「あのとき」の気持ちを描いてくれる。

かつて、声にならなかった想い。
かつて、言えなかった「またね」。
それでも、ちゃんと風が運んでくれていたのかもしれない。

結びのことのは

言えなかったことは、消えたんやなくて、
　静かに誰かの心に残ることばになってる。