昭和の情景– category –
路地裏の空き地、たばこの看板、ビー玉の音。
昭和という時間には、ざらっとした光と風がありました。
あの頃の匂いや、言えなかった気持ちを、
一枚の絵と、ことのはに閉じ込めています。
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声をかけなかった夏
駄菓子屋の前、いつもの夏 「駄菓子」と書かれた布看板の向こうで、ビー玉がカツンと鳴る。あの午後、あの空気。静けさの中に、夏の音が溶けていた。 声に出さなかった「なにしてるの?」 女の子はただ立っている。後ろ手に手を組み、ちょっと迷って、ちょ... -
すれちがう声を、風が運ぶ。
木造の平屋にぶらさがる、ひとつの風鈴。音は鳴っていないのに、聞こえた気がした。 彼はまっすぐ前を向いていた。彼女は少しだけ、振り返っていた。二人の間には、言葉ではない何かが、確かに通っていた。 この道は、何度も一緒に歩いたはずなのに。今日... -
郵便屋さんが通る道
朝露が乾くころ 黄金色の稲がそよぐ道を、ひとりの郵便配達員がゆっくり走っていく。自転車の音が「シャッ、シャッ」とリズムを刻むたびに、風がひとつ、ページをめくるみたいに吹き抜ける。 その背には茶色のカバン、その足元には、一匹のねこ。 手紙のか... -
だがしやのまえで、声をかけられなかった日
夕暮れ、駄菓子屋のまえ オレンジに染まった空の下。木造のだがしやには、ビニールに包まれたお菓子がきっちりと並んでいる。男の子たちは夢中で地面に円を描き、遊びに没頭している。ただ、その円の外側には、ぽつんと一人──女の子が、立っていた。 「入...
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