2025年– date –
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声をかけなかった夏
駄菓子屋の前、いつもの夏 「駄菓子」と書かれた布看板の向こうで、ビー玉がカツンと鳴る。あの午後、あの空気。静けさの中に、夏の音が溶けていた。 声に出さなかった「なにしてるの?」 女の子はただ立っている。後ろ手に手を組み、ちょっと迷って、ちょ... -
すれちがう声を、風が運ぶ。
木造の平屋にぶらさがる、ひとつの風鈴。音は鳴っていないのに、聞こえた気がした。 彼はまっすぐ前を向いていた。彼女は少しだけ、振り返っていた。二人の間には、言葉ではない何かが、確かに通っていた。 この道は、何度も一緒に歩いたはずなのに。今日... -
いまの私たち
もう比べるの、やめたんよ。 どっちがしっかりしてるとかどっちがムードメーカーとかどっちが損してるとか、得してるとか。 言い出したらきりがないし、たぶん、どれも半分くらいしか当たってない。 気がついたら、並んで立ってた。目の前の景色は同じ... -
あの頃の声がした
遠くの風鈴が、時間を巻き戻す 姉は、うちわを仰ぎながら、ふと風鈴を見上げた。妹は、蚊取り線香の煙を見つめていた。 ふたりのまわりに、静かな午後が流れていたけれど、どこかで“懐かしい声”がした気がした。 ことばじゃない、でも届いてた 鳴ったのは... -
声にしない手紙
縁側の午後、ことばの代わりに 夏の午後。縁側に座った姉は、うちわで風をつくっていた。妹は黙って、その音を聴いていた。 風鈴の音が、ふたりの間に揺れる。まるで、何かの“返事”みたいに。 話さなくても、届けられること 「さっき届いた手紙、まだ返事... -
風の音と、立ち話
朝顔の道で、ふたりは立ち止まった 夏の朝。縁側から顔を出した姉が、風鈴の音に耳をすませていた。妹は、朝顔の咲く道を歩いてきて、ふと立ち止まる。 ふたりはまだ、何も言わない。 風が、ふたりの会話を始めた うちわの音、風鈴の揺れ、金魚鉢の水の音... -
音のない音を聴く
風の中に、ことのははある 言葉じゃなくて、風が伝えてくれる日がある。うちわの音、簾の揺れ、風鈴の響き。 この午後、ふたりの時間は音でできていた。 誰もしゃべらない、でも伝わってる 姉は空を見上げ、妹は金魚を見つめてる。 同じ場所にいながら、同... -
ことばのない午後に
春の河原で、たったひとつのやりとり 花びらが風に舞う川べりで、少女たちはほとんど言葉を交わさなかった。 けれど、その手の動きと、目の奥にあるものが、すべてを伝えていた。 「差し出す」という行為が、いちばんやさしいことば おにぎりを渡す姉の手... -
あの子と私は、ぜんぜんちがう
並んだ写真、並ばない性格 家には、ふたりが並んで写った写真がたくさんある。けど、写ってないもののほうが、たぶん多い。 私が腕を組んだとき、あの子は笑ってる。 私がためらうとき、あの子は走り出してる。 似てるって言われるけど たしかに、髪の色も... -
郵便屋さんが通る道
朝露が乾くころ 黄金色の稲がそよぐ道を、ひとりの郵便配達員がゆっくり走っていく。自転車の音が「シャッ、シャッ」とリズムを刻むたびに、風がひとつ、ページをめくるみたいに吹き抜ける。 その背には茶色のカバン、その足元には、一匹のねこ。 手紙のか...
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